三岸好太郎・節子展「展覧会の灯り(その四)」
今日は、三岸展のもう一つの灯りのご紹介です。
明治に生まれて、平成まで、100年近い年月を生きた三岸節子。
灯りのデザインとして、夫・好太郎の急逝後の節子の人生のひとかけらを色と質感で表したい気持ちが強くなっていきました。
3人の子供達を抱えて、女流画家として、力強く生きた節子。現実をしっかりと受け止めて、自分の世界をどんどん広げていった節子。「志」を常に持ち、努力し続けた人。
作品群を映像や画像で観て、私の心に残った印象は、目に見える世界を見つめる節子のまっすぐなまなざし。筆のタッチと色彩の鮮やかさとボールドさとが、どこまでも消えなくて、それは、節子が信念を持って生き抜いた道のりをみているようでした。
今回の展覧会のハイライトでもある節子の「さいたさいたさくらがさいた」は彼女が93歳で取り組んだ最後の作品。壮絶な人生の終盤に感じる、みなぎるエネルギー。でも、私には、強さだけではなく、愛に満ちた計り知れない優しさも伝わってきました。
始めは、原色を中心にデザイン構成をしようと思って色を作ろうとしましたが、だんだん、その優しさと存在の力強さを、節子がたくさん描いた静物に表せないかと思うようになりました。そして、このようなデザインが生まれました。
寄り添う静物 “Still Life, with you”
三岸節子が描き続けた静物たち。節子の繊細で愛情に満ちた優しさと、力強さに胸を打たれながら、特に壺の作品にみられる色調とタッチに着目して制作しました。
キャンドルに描く壺たちは、一つひとつ手描きで仕上げます。にじむような感じと、細くても圧倒的な存在感になるように意識して制作しました。
心に染み込んだように、余韻として残る節子の作品の数々。外の世界と自分の関係性だけではなく、自分自身の内側の世界とたくさん対話することを促してくれているような気にもなりました。早く本物を観てみたいです。
貝殻旅行
三岸好太郎・節子展
Le voyage des conquillages – Kotaro et Setsuko Migishi
2021 6/26(土)~9/1(水)
北海道立三岸好太郎美術館
MIMA / Migishi Kotaro Museum of Art, Hokkaido
三岸好太郎・節子展「展覧会の灯り(その三)」
ゴールデンウィーク中から、キャンドルのデザインの構想を元に、試作品の制作に取り組みました。
先日訪れた、三岸好太郎美術館でとても印象的だった「感情の色彩と質感」。美術館を出た時に残った気持ちが、原色ではなく、とても繊細で細かな中間色だったことも、デザインに反映しました。そして出来上がった第1作目がこちらです。
貝と蝶々 “Shellfish and Butterfly”
好太郎と節子。最後の二人だけの「貝殻旅行」。
何処からかこみ上げる切なさ。二人が見た景色、色彩上の感情を想像しながら、好太郎が描いた貝たちの曲線と、蝶々の舞を、彼が晩年取り組んだひっかき線の技法で表しました。
三岸好太郎・節子展「展覧会の灯り(その二)」
今日は、三岸好太郎・節子展のキャンドルのデザイン構想の日。
初めてこのお話をいただいた時、ポスターを観て、その絵画の鮮烈さに圧倒されました。
特に、節子の作品は、言葉では到底表現できない、圧倒的な力強さと気丈さ。静寂の中にある揺れ動く感情。
その背景や三岸好太郎の作品を、実際に紐解いて感じたくて、今回のメイン会場となる、北海道立三岸好太郎美術館に、先日行ってきました。お隣は、北海道立近代美術館、そして広大な庭園に囲まれた敷地に静かに佇む、美術館では、今年第二期の所蔵品展「色彩と衝動」が開催されていました。
人物画を中心に展示されている作品からは、時代背景を追いながら、「色彩」と、「筆のタッチ」に着目できる構成になっていました。そのテーマに誘導されながら、三岸自身の言葉や、作品の色と質感が目に飛び込んできたままを、ノートにひたすら書き留めました。
「色彩は各々その弾力的な力を内在し、その強弱によつて、各異なった衝動弾力を表現するのである」三岸好太郎「色彩上の感情」『独立美術』1933年
赤、青、黄色で訴えてくるもの。
年を重ねながら、また様々な日本と西洋の文化からの影響を受けながら、晩年は、コラージュやひっかき線も作品に取り入れていった、三岸好太郎の柔軟性と興味の広さ。私自身、ワックスアートを制作するときは、筆よりも串や針を用いたひっかき模様の羅列が多いので、とても興味深くタッチを追っていきました。
好太郎の命が、31年だけだったということを感じながら、儚い短い時の中で、最後は蝶を描いていたことなど、様々なエピソードを背景に、それを支え、受け入れ、その後93歳まで生きた妻の節子のことが、美術館を出る時、ズシンと心に残りました。
展覧会のサブタイトル、「貝殻旅行」。
二人の出会いから結婚、そして死別。
展覧会の灯りは、好太郎と節子、それぞれの色彩と質感で表現しようと決めました。
三岸好太郎・節子展「展覧会の灯り(その一)」
昨日は、北海道・函館で、平年よりも10日早く桜の開花が発表されました。何と、1953年以降2番目に早い開花となったとのこと。
自然がみせる情景の変化を受け入れることは、私たちの心身にもともと備わっているとしても、去年から続くパンデミック下での日々の変化には、ふとしたときに気持ちが落ち込んでしまうのも、自然なことだと思うようにしています。
そんな中、今年6月より、札幌で、素晴らしい文化・芸術に深く触れる機会をいただきました。三岸好太郎・節子展です。
そして光栄なことに、今年も「展覧会の灯り」のキャンドルをデザイン・製作し、美術館で会期中販売することになりました。
私にとって、このお仕事は、刺激に満ちた、まるでタイムトラベラーになったような気持ちにさせてくれます。時代を超えて、国境を超えて、今も大切に受け継がれ、人々の心を動かす作品と、それを生み出した芸術家たちの人生の物語や伝えたかったことを、展覧会のテーマとともに捉え、感動しながら製作しています。「展覧会の灯り」を作ることは、来場者の皆さまが、お家に帰ってから、灯りに火をつけて、美術展で思いおもいに感じたものをゆっくりと振り返っていただけたら…と、2009年開催クリムト展から、主催者さまからのアイディアで始まりました。キャンドルの灯りが思い出を照らす、一つの形を、皆さまに体感していただけたら幸いです。
「二人の出会いから100年」
ー過去最高の夢の共演ー
「絶対、恋をしろ」
ー好太郎が節子に残した最期の言葉ー
展覧会のキャッチコピーを読むだけで、心がどこか切なくなる瞬間。これから三岸夫妻の人生を掘り下げて行き、デザイン、製作の日々となりますが、少しずつその過程をご紹介できればと思っています。時々のぞいてみてくださいね。
貝殻旅行
三岸好太郎・節子展
2021 6/26(土)~9/1(水)
北海道立三岸好太郎美術館
そして、同時開催されるこちら:
へそまがり日本美術
禅画からヘタウマまで
ーきれいとは言いがたいもの、不恰好で不完全なものに、なぜか心惹かれるー
2021 7/17(土)~9/1(水)
北海道立近代美術館